第2回 フルショットの魅力
文/鈴木啓之(アーカイヴァー)
当初は縦長のトレイを真ん中から二つに折り、ジャケットも折りたたんでコンパクト化させることを推奨していたCDシングルだったが、それはだいたい最初の一年くらい。やがて折らずにそのままの状態で保存するのが主流となる。
当然ジャケットのデザインにも反映され、それまで上下でそれぞれ写真とタイトルというフォーマットが崩れていった。とはいえ、シングルもLPも真四角だったレコードに比べると、縦横2:1のCDシングルのジャケットはデザインにもいろいろ制限が課せられる。ところがちゃんとそこを逆手にとった秀逸なデザインの盤が登場するのだ。そしてその立役者となったのが森高千里であった。
森高のデビューは87年5月の「NEW SEASON」だが、初めてのCDシングルはアナログ盤と同時に出された3作目の「GET SMILE」で88年2月25日リリース。それから1ヶ月後の3月25日に、デビュー曲「NEW SEASON」と2作目「オーバーヒート・ナイト」のカップリング盤が出され、その1ヶ月後の4月25日に今度は4作目の「ザ・ミーハー」が出るという連続リリースで、ファンは大変だったに違いない。ちなみに「GET SMILE」の品番は“10SL-2”でワーナーのCDシングル第1回発売分の一枚。記念すべき“10SL-1”は小林幸子「恋の曼珠沙華」であった。

森高千里「ザ・ストレス」
そして、10月25日発売の5作目「ALONE」を挟み、明けて89年の2月25日、つまり平成になってまもなく出された6作目「ザ・ストレス」が今回の話題の主役である。歌唱力もさることながら、類い稀なる秀でたルックスで徐々に人気を上昇させていた森高がブレイクする起爆剤となったのは、この「ザ・ストレス」であろう。まず楽曲のインパクト、それ以上に話題となったのがジャケットとPVで披露したウェイトレス姿。惜しげなく披露した美脚に、世の男子たちは釘づけとなった。これを発想したスタッフは、おそらく「アンナミラーズ」の常連だったのではないだろうか。
かつては多くの店舗を擁し、現在では高輪店のみが唯一残っているアメリカン・スタイルのレストランは、看板メニューのパイと同じくらい、ウェイトレスの可愛らしい制服が人気だったのだ。そのビジュアルは、後のメイド喫茶やコスプレ、ひいては秋葉原文化にも影響をもたらしたとおぼしく、その過程として「ザ・ストレス」の存在は大きかったはず。これが無ければもしかするとAKB48も誕生していなかったかも、などと思ってしまう。

森高千里 「ザ・ストレス」※レコード
いずれも全身ショットながら、同時に出されたレコードとは写真が異なる。レコードは制服姿でトレイを持った正面向きの写真で、正方形の対角線を使って被写体を斜めに配置する工夫が凝らされている。CDは横向きで前屈みになってのカメラ目線、足が最も美しく見える構図で、縦長のジャケットという特性が最高に活かされることとなった。8センチCDシングルの誕生からちょうど1年後に出されたこの「ザ・ストレス」こそ、革命的な一枚といえるのではないだろうか。しかし、歌手の前身が写ったジャケットはもちろんこれが初めてではない。アナログ盤の時代、殊に60年代後半から70年代にかけてルックス重視の女性歌手が台頭するようになると、シングル盤のジャケットを二つ折りのダブルジャケットにして、雑誌のピンナップの如く全身が歌った写真が使われるケースが少なくなかったのである。
例えばスタイル抜群の由美かおるや奈美悦子といった西野バレエ団系や、小山ルミや山本リンダらのハーフ系、さらには美空ひばりや都はるみの純歌謡曲系や男性歌手にまで及んだ。CDの場合は大きさの問題でレコードほどの迫力はないにせよ、全身を見せるという発想は一緒かもしれない。80年代アイドルの付録ピンナップにもその傾向は顕著であったが、CDシングルではそれがストレートに表現出来たのである。
森高は「ザ・ストレス」に続くシングルで大ヒットとなった「17才」でもミニスカスタイルで全身ショットを披露。以降、他の歌手でも同じ発想のデザインは頻発し、特に印象的な一枚に宍戸留美「コズミック・ランデブー」がある。森高に負けない美脚で、特筆すべきはジャケ裏が後姿になっていたこと。同じ写真が使われた、ほぼ等身大の宣伝用縦長ポスターも作られた。こういったデザインはその後もグッドプロポーションの歌手に多く見られたようで、女性のスタイルの良さがますます磨かれている現在のシングルが短冊型でないのはちょっと残念ではある。
![]() 森高千里 「ザ・ストレス」 ワーナー 1989.2.25 |
![]() 宍戸留美 「コズミック・ランデブー」 CBS・ソニー 1990.5.21 |
![]() 宍戸留美 「コズミック・ランデブー」(裏面) |
![]() 森高千里 「17才」 ワーナー 1989.5.25 |
![]() 桜井幸子 「瞳はイノセント」 CBS・ソニー 1991.3.1 |
![]() 観月ありさ 「エデンの都市」 コロムビア 1991.8.28 |